私は、『中小企業再生プログラム(旧、経営再建プログラム)』1の最初の「初回問診」で経営危機に陥っている会社の多くで粉飾を見つけます。
再建プログラムに着手させて頂く条件の一つは、この機会に思い切って正直に、粉飾をやめてもらうことです。
この時、即時に「はい、わかりました。」という経営者は稀です。
特に建設業関連には経営事項審査という制度があり、入札に大きく影響してきます。
一般の在庫に当たる未成工事支出金に下駄を履かすなどして赤字を黒字にしています。「あなたの言うとおりにしたら、入札に参加できなくなって倒産してしまう」
と抗います。
彼らの会社の決算を手伝い、アドバイスする立場にある税理士さんのなかにもまだこれを幇助している方が多くおられるのも問題です。
厳しすぎるかわかりませんが、粉飾を表に出して、その会社が倒産するのであれば、それはそれでしかたのないことだと思っています。こんな方法で会社が生きながらえるほうがおかしいのです。
粉飾は犯罪です。また麻薬のように一度手を付けると、そこからぬけ出すのは至難の業です。
倒産でもしないかぎり、この不義は次の代まで引き継いでしまうのが現実です。そんな企業に関わっている従業員さんがかわいそうです。
ではなぜそんな粉飾に手を染めてしまうんでしょうか。
その多くが経営者が赤字の決算書を提出したら、金融機関の借り入れが厳しくなったりするのを恐れていることが原因です。
またその方法は、棚卸しに下駄を履かせるのは常套手段ですが、架空の売上金を計上し、売掛金として処理したり、使った経費を計上しないで仮払金などで処理しています。
赤字であれば、きちんと赤字の決算をすることです。
正直に行うこと、これはみなさまが考えている以上の大きなメリットを生み出さいます。
第一に、赤字であれば、金融機関等から改善計画書の提出を求められたりしますので、経営者も経営改善に着手しなければならない状況に追い込まれます。
何より、経営者であれば、赤字の決算書を見れば「なんとかしなければ」と、小手先の帳簿操作や借り入れの工面ではなく、根本的な経営変革の必要性を感じるはずです。頭で粉飾しているのはわかっていても、決算書が黒字になっているのを見ると「まあ、こんなものか。」と手を打つことを意識する力が弱まります。
金融機関が新たな借入を断るときこそが、お金を借りることより経営再建に着手し、経営の中身を変えて健全企業から優良企業になる最大のチャンスです。
金融機関や経営者個人、家族、親戚、友人などのお金を1円でも会社に入れなければ資金繰りを解消できないということは何を意味するのでしょうか?
それは経営そのもので必要な資金を生み出せないことを意味します。
つまり、この段階でやらなければならないことは、外部資金の導入ではなく、まずは経営の再点検をすることです。
経営危機に陥った経営者のほとんどがこのタイミングを見誤っています。外部資金や個人のお金を導入して一安心してしまい、しばらくすると又資金繰りが厳しくなってきます。
それは当然ですね。かれらは、経営そのものに何も対策を打っていないからです。その後は例外なく加速度を付けて「負の連鎖」の道を転げ落ちていきます。
次に、粉飾すれば儲かってもいないのに無駄な税金を払わなくてはいけません。しかし、粉飾に使うエネルギーを経営再建に変えて、まずは本当の黒字企業に変えて利益をだせば、粉飾をやめた期に出した赤字分は次の期に持ち越すことができます。
そして翌年から9年間2毎年の利益と相殺して納税することが認められまています。
この上げ下げは大きなものです。例えば、在庫などの粉飾合計が3000万円あってこれをオモテに出して、今期の実際の赤字500万円とあわせて当期3500万円の赤字を計上し、2期目は経営再建によって500万円、3期以降5期まで毎年1000万円の利益が上がったとしましょう。
税務上の相殺の赤字はこの期でゼロになります。その間の法人税の支払いはゼロになるのです。